如月 文実(きさらぎ ふみじつ)です。泥その1 4作品を投稿いたします。

わ わが、四コマ物語ワールドにようこそ。作家としての人格、如月 文実(きさら
ぎ ふみじつ)です。
 今回の四コマ物語は、以下の4作品です。


如月文実
 この四コマ物語は、人間の心の泥の部分を表した四コマ物語です。

いつものように
 (1) 目覚まし時計がいつものように、いつもの時間に鳴る。いつものように、
スイッチをオフにし、ふとんから出る。いつものように寝間着からトレーナーに着替
え、歯を磨いて顔を洗う。いつものようにテレビをつけた後、いつものように朝食の
支度をする。メニューは食パンとコーヒー。いつもと同じである。パンが焼ければい
つものバターを付けてパンを食べる。朝食が終われば、いつものようにヒゲをそり、
セビロを着て、髪をセットし、身支度を整える。身支度が完了した後テレビに目をや
ると、時刻はいつもとだいたい同じ。いつものようにゴンヤリ、いつもと同じ番組を
見て、いつもの出勤時間がくるのを待つ。出勤時間がきた。今日は、いつもと違い、
ゴミを出す日だ。ゴミ袋と一緒に、アパートの玄関を出る。「行ってきます」と言っ
ても返事する者はいない。だから、何も言わず、無言で鍵を閉める。
 (2) いつものように、通勤電車にすし積めとなり、いつもの時間に会社に着き
、いつものようにタイムレコーダーを押す。刻まれた時間は、いつもとだいたい同じ
。いつものように自分の机に座り、いつものように与えられた仕事をする。昼休みは
いつもの社員食堂で昼飯を食う。メニューは、昨日とは違う、しかし、5日前とは同
じである。午後は午後で、いつものように、午前と同じ仕事をする。
 (3) 午後5時、いつものように仕事を終え、いつものように電車に揺られ、い
つものように、家路に向かう。いつものようにコンビニエンスストアに寄り、いつも
のように缶ビールと、夕食のレトルト食品を買う。メニューは昨日とは違う。しかし
、六日前と同じである。アパートに着くと鍵を開け中に入る。「ただいま」とは言わ
ない。さっそくテレビをつける。帰宅時間は、いつもとだいたい同じ。いつものよう
に、セビロをハンガーにかけ、シャワーを浴びる。いつものように下着を着替え、ト
レーナーを着る。それから夕食の支度をする。といっても、いつものように電子レン
ジでレトルト食品を温めるだけ。夕食が終われば、いつものようにボオッとテレビを
見る。いつもの夜のニュース番組が終われば、いつものようにテレビを消し、歯を磨
き、トレーナーから寝間着に着替える。いつものように、ふとんに入り、目覚まし時
計のスイッチをオンにする。
 (4) 寝つくまでに、いつも考えること。それは、いつもと違う生活を手に入れ
ること…。

ひきにげ
 (1) 夜明け前、人影のないはずの道路に、突然人が現れた。はっとしたその瞬
間、トラックの前方で、鈍い音と衝撃を感じ、次の瞬間には、宙に舞い上がった人間
が、道路に落ちるのが見えた。この一瞬の出来事に、団吉の頭の中は真っ白になった
。ハンドルを握る手もアクセルを踏む足も、もはや意識の支配下にはなかった。トラ
ックは今、いままで培ってきた本能的な感覚だけで動かされていた。弾吉の頭の中の
スクリーンには、自然に、彼の未来が写し出された。道路に横たわったまま息をひき
とった被害者。警察に捕まり、手錠をかけられた自分。泣き崩れる妻と子。写し出さ
れる映像は、悲惨なことばかりであった。
 (2) やがて映像は途切れ、弾吉は我に返った。そして、今後の身の振り方を、
今度は意識的に、解説を加えながら、頭の中のスクリーンに写し始めた。「ひかれた
人はどうなったのだろうか。ドライバーとしては、ひいた人間を病院へ連れて行くの
が義務だ。だが、もしそいつが死んでいたら、おれはブタ箱行き。しかも、多額の賠
償金を請求されるのでは…。そんなことになれば、妻や子は路頭に迷うことに…。も
しかしたら、おれは、妻や子に見捨てられるのでは…。いやだ! そんなことにはな
りたくない。まてよ、もしかしたら被害者はピンピンしてるかも…。夜明け前で目撃
者はいないはず…。もしかしたらバレないかもしれない。いや、きっとそうだ。被害
者には悪いが、これも家族のため仕方がない。自分は、わざとやったわけではないし
、事情が事情だけに神様も許してくれるかもしれない。被害者も、おれの家族のこと
を考えればきっと許してくれる。きっとそうに違いない」。このまま何もなかったと
いうことですませたいという願望が、いつしか希望的観測となり、ついには確信へと
変化してしまった。結局、弾吉は、そのまま車を走らせた。
 (3) 弾吉のひきおこした交通事故は、その日のテレビや新聞の夕刊で報じられ
た。被害者は死亡していた。事件が報道されてから、会社内でもそれが話題となった
。運転手仲間は、勿論冗談で、「おまえじゃないのか」と互いを指差した。事故のこ
とが耳に入るたびに、指差されるたびに、弾吉は、心の中にビリビリッと電気の走る
ような衝撃を感じた。しかし、ここで取り乱すとみんなから怪しまれる。とにかく、
平静を保ち、事故の話にも積極的に参加し、ひきにげ犯を批判することによって、自
分に疑いがかかるのを防ごうとした。そして、ほとぼりがさめるのを心の中で祈り続
けた。
 (4) だが、事件から2週間後、ついに警察が、弾吉に任意出頭を求めてきた。
弾吉は、取調べには、知らぬ存ぜぬで通すつもりでいた。そうすれば、きっと…とい
う希望的観測を持っていた。だが、目撃者の存在と、現場に落ちていた塗料が、弾吉
のトラックと一致したという物的証拠をつきつけられた瞬間、それまで抱いていた希
望的観測はいっきに消し飛び、今ある現実だけが、弾吉の頭の中のスクリーンに写し
出された。弾吉は、容疑をすなおに認めた。同僚たちは、意外な事件の結末に、「な
ぜあいつが、信じられない」と声をそろえた。ニュースキャスターは、逮捕されるま
での犯人の平然とした態度を非難し、捕まってすぐ犯行を認めるのなら、なぜ自首し
なかったのかとコメントした。誰も、団吉の心の中の映像を見ようとはしなかった。

憎さ100倍
 (1) 妻が、突然、藤介に離婚を申し出た。理由は、もっと自由な時間を持ち、
それをスプリント競技の練習につぎこみたいからということだった。思いもよらぬ出
来事に、藤介は困惑した。藤介と結婚した時、妻はまだ無名の選手で、夫婦生活もう
まくいっていた。しかし、妻が、スプリンターとしての頭角を現した時から、状況は
変わった。妻は日々練習に明け暮れ、帰りも遅く、家をあけることも多くなった。家
事も、ろくすっぽ行わず、妻の頭の中にあるのは競技のことばかりで、話すことも同
じで、夫婦としての甘い会話はない。そんな生活にストレスを感じていた藤介は、最
近妻とよく衝突した。そして、妻が国内の大会で銀メダルを取った翌日、ついに破局
が訪れたのである。これまで衝突はしても、藤介は妻を愛していた、かわいいと思っ
ていた。だから浮気もしなかった。衝突したのは、愛情の裏返しからであった。だが
、妻には、スプリント競技という不倫の相手がいた。結局妻は、不倫相手の方に寝返
ったのである。藤介は裏切られたのである。そしてその気持ちが、藤介の、妻に対す
る愛情を100倍の憎しみに変えた。
 (2) オリンピックを3か月後に控えた夜、藤介は、一人の女を待ち伏せしてい
た。それは別れた女ではない。今、スプリント競技で、妻だった女とオリンピック行
きの切符を、激しく争っている女であった。女が通りかかる。藤介は、サッと姿を現
し、持っていた金槌で、女の片足を一撃した。女は、足を抑えながらその場で蹲った
。藤介は、女に軽く頭を下げ、凶器の金槌をわざと落としてその場を去った。
 (3) それから数週間後、オリンピック代表候補の蹴岩選手を襲撃した犯人が逮
捕された。その男は、なんと蹴岩選手とオリンピック代表の座を、激しく争っていた
、波多選手の前の夫であった。警察の取調べに、犯人は黙秘を続けた。そしてそれが
、この事件に、波多選手が関与していたのではないかといううわさを呼んだ。うわさ
はさらにうわさを呼び、波多選手は、オリンピック代表の座はおろか、スプリンター
としての生命も危ぶまれるようになった。計算どおりのなりゆきに、藤介の心の中の
憎しみは、手をたたいて喜んだ。
 (4) 留置場に、別れた女とそのコーチがやってきた。女は、ポロポロと涙を流
し、何度も何度も土下座して、床に頭をすりつけながら、本当のことをしゃべってく
れと藤介に頼んだ。だが藤介は、そんな情には流されなかった。いやむしろ、女に対
する憎しみはさらに大きくなった。なぜなら、女が自分に泣きついているのは藤介の
身を案じているからではない。女が、オリンピック出場を果たさんがために、結局は
、女自身のために泣きついているからである。「罪はおまえにもある」。藤介は小さ
くつぶやいた。

麻薬
 (1) 殺人は重罪である。殺人を犯した者はみな、重い罪にとわれる。場合によ
っては、自らの命をもって、罪を償わなければならないこともある。殺人は、それほ
ど重い罪である。だが、にもかかわらず、殺人を犯しても罪にとわれない場合がある
。麻薬を使用している時は、たとえ殺人を犯したとしても、薬物中毒による心身喪失
で善悪の判断が不可能な状態だったと判定されれば、罪はとわれない。裏を返して言
えば、麻薬を使用すれば、罪にとわれることなく人を殺せるということである。信太
郎はそう考えた。
 (2) 信太郎には、どうしても殺したい人間が1人いた。そいつは、長年連れそ
った信太郎の妻を誘惑し、愛する妻を奪った。しかもそいつは、こともあろうに、自
分の家の近くで、妻とのうのうと暮らしている。江戸時代にこんなことをすれば、不
義密通で打ち首獄門である。しかし、現代においては、処罰の対象とはならない。道
徳的には、やつが悪い。口先だけなら「やつを殺す」と言っても世間は納得してくれ
るだろう。だが、本当に殺してしまえば、法律的にも、世間からも、自分だけが批難
され、罰せられるだろう。だが信太郎は、どうしても、やつを許せなかった。殺して
やりたかった。信太郎の心には、憎悪の炎が勢いよく燃え盛り、理性という名の水を
圧倒していた。と、ちょうどその時、テレビで麻薬中毒者の殺人事件が報道された。
犯人は、薬物の中毒者ということで殺人罪には問われなかったという。その報道を見
た瞬間、信太郎の憎悪の炎は、完全に理性の水を蒸発させてしまった。
 (3) 信太郎は、やつを殺す、やつを殺すと念じながら麻薬を打った。やがて気
持ちはハイになり、自分の意識を持ちながらも、やつを平気で殺せる気分になった。
信太郎は、目的を果たすべく家を出た。やつの家に着き、ベルを鳴らすと、出てきた
のは妻であった。妻は、不機嫌な顔で信太郎を見た。信太郎は、半分しかあいていな
いドアを力ずくで大きくあけ、なりふりかまわず、中へ乱入した。やつは、中にいた
。やつの顔を見るやいなや、信太郎の憎悪の炎はいままでよりも強くそして勢いよく
燃え上がった。信太郎は、隠し持っていた庖丁を、すばやく取り出すが早いか、やつ
をメッタ突きにした。薬物のせいか憎悪の炎のせいか、やつが、いくら悲鳴をあげて
も、信太郎の動きは止まらなかった。信太郎の動きが止まったのは、やつが人間から
単なる蛋白質の固まりになったと感じた時であった。突然の、あまりの惨事に、妻は
放心状態で、部屋の隅に座り込んでいた。だが信太郎は、まだ薬が効いているせいか
、憎悪の炎がスカッと消えたせいか、目的を果たした満足感でいっぱいであった。こ
れで無罪になれば、完全犯罪は成立である。
 (4) 結局信太郎は、麻薬中毒による心身喪失ということで、殺人の罪には問わ
れなかった。だがその代わりに、麻薬の取り締まり法違反で処罰され、禁断症状と、
夢に現れるやつの亡霊に苦しむことになった。

ーーー 四コマ物語 説明
四コマ物語とは
 (1) 四コマ物語とは、私、如月文実(きさらぎ ふみじつ)が新たに開発した
文学形態(?)です。
 (2) 四コマ物語は、起承転落の4小節からなる小説です。
 (3) 題材は、日常生活のできごと・道端で転がっているような話・スポ−ツ・
社会風刺・おとぎ話・パロディ−などさまざまです。
 (4) みなさんも挑戦してみませんか。そして、001、002と、ネットの中に四コ
マ物語ワールドを作ってみませんか。

 特徴、可能性
 (1) 文が短く、読みやすい・読むのにつらくない。
 (2) その中にもジャンルがいろいろある。
(3) ジャンルの中でもバカバカしいのからシビヤーなものまで、バライティー
にとむ。
 (4) ジャンルがいろいろあり、この先好きなものだけ拾い読みできる。
 (5) ジャンルがいろいろあり、老若男女はばひろく楽しめる。
 (6) 読者自信が自由に新たな四コマ物語のサイトを作ることも可能。
 (7) この形式に当てはめればだれでも簡単に小節が書ける。
 (8) この形式に当てはめて、既存の小説を四コマ物語にすることができる(要
約四コマ)。
 (9) これを元に短編、長編小説を書くことも可能。 
 (10) (4)[落]を組替えることにより小説を改造できる(陰、陽)。
 (11) 将来、俳句、和歌のように、「四コマ物語集」ができるかも?
 (12) 将来、四コマ物語の大きなネットができるかも?