如月 文実(きさらぎ ふみじつ)です。四コマ物語〜ご子孫様シリーズその1 4作品を投稿いたします。

ご子孫様シリーズ
如月文実
 この四コマ物語は、よく知られているおとぎ話等を、その子孫としてパロディイ化
した作品です。そして(1)〜(3)では、元となる話を紹介していますが、(4)
の子孫はいったいなんの話でしょう。

子孫のタヌキ
 (1) 森の木陰でドンジャラホイ、トントン手拍子足拍子。太鼓と笛の音に合わ
せ、茶釜に化けたタヌキが踊る。何を隠そうこのタヌキ、「ぶんぶく茶釜」で茶釜に
化けたタヌキの子孫である。このタヌキは、先祖代々受け継がれてきた芸を磨き、旅
芸人として各地のお祭りに参加し芸を披露していた。踊りの終わった後、村人から割
れんばかりの拍手が鳴り響き、と同時にご祝儀の硬貨が舞台狭しと投げこまれた。今
回も舞台は大成功だった。
 (2) 祭りの終わったその夜遅く、タヌキは次の興行先に向かうため自家用の舟
に乗った。舟は粘土を焼いて作った瀬戸物の舟であった。何を隠そうこのタヌキ、「
かちかち山」で、泥の舟に乗りあえなく沈んでいったタヌキの子孫でもあった。その
ため、ウサギの使用した木の舟は意地でも使いたくない。そして研究に研究を重ね開
発されたのが、水の上を溶けることなく、自由に往来できる泥の舟、すなわち瀬戸物
の舟であった。タヌキはご祝儀と舞台道具を乗せ、瀬戸物のカイで水をかきわけかき
わけ、次の興行先まで急いだ。
 (3) だがそのあせりが、思わぬ事故を引き起こした。この夜は、月はおろか、
星一つすら見えない闇夜で、視界はほとんどきかなかった。そこに気のあせりが加わ
り、誤って舟は岩に激突してしまった。舟は大きく二つに割れ、ご祝儀と舞台道具も
ろとも、タヌキは水の中に沈んでしまった。そして岸辺に打ち上げられたタヌキを助
けたのが、バクチ打ちの男であった。タヌキは助けてもらったお礼に、さいころに化
け、ばくち打ちの手伝いをすることになった。何を隠そうこのタヌキ、恩返しでさい
ころに化け、バクチ打ちの手伝いをした落語「タヌキのさい」のタヌキの子孫でもあ
った。先祖は、すべてのさいころの目に対応する体の部分について、ちゃんと打ち合
わせができておらず失敗した。子孫はこの教訓を生かし、あらかじめそれをちゃんと
打ち合わせしてバクチに臨んだのであった。
 (4) だがまた、肝心なところでアクシデントがおこった。6の目は両目・両前
足・両後足と打ち合わせていた。ところが、天下分け目の大勝負という時、6を出さ
ねばならないところで、偶然にも片方の目にゴミが入ってしまった。そして、一番賭
け数の多い、あの、因縁の5を出してしまったのだ。これに怒ったバクチ打ちが、タ
ヌキの化けたさいころを、おもいっきり床にたたきつけたばっかりに、その衝撃でタ
ヌキは元の姿に戻りいかさまもばれてしまった。そしてタヌキは追われる身となった
。そして、タヌキが命からがら逃げ込んだ所は、山の奥深くにある小さなお寺であっ
た。心やさしい和尚さんがタヌキをかくまってくれたのである。また和尚さんは、い
かさまバクチに手を貸した罪滅ぼしとして、月夜の晩に庭に出て、腹つづみを打つ修
行をさせた。


子孫のサル
 (1) 如意棒を持って金斗雲に乗り、天界にあるお釈迦様の屋敷を毎日パトロー
ルしている1匹のサルがいた。何を隠そうこのサル、「西遊記」で三蔵法師のお伴を
したあの孫悟空の子孫であった。先祖の実績はお釈迦様に高く評価され、それから先
祖代々、お釈迦様の屋敷の警備員として雇われていた。
 (2) そんなある日、お釈迦様の宝物を狙い、鬼の盗賊団がお釈迦様の屋敷を襲
った。そうはさせてなるものかと、サルは鬼を相手に勇敢に戦った。しかし多勢に無
勢、サルは苦戦しなかなか勝負がつかない。そこへお釈迦様が、「力を出せ」とキビ
ダンゴをサルに渡した。何を隠そうこのサル、「桃太郎」でキビダンゴをもらって桃
太郎の家来となり、一緒に鬼を退治したサルの子孫でもあった。キビダンゴを食べた
サルは元気百倍となり、たちまち鬼をコテンパンにやっつけた。鬼はたまらず逃げ出
した。サルは、去る者を追い掛けた。
 (3) 鬼の盗賊団が逃げ込んだのは、山の奥深くにある柿の木でできた小さな家
であった。「ここが盗賊団の隠れ家に違いない」。そう睨んだサルは、盗賊を一網打
尽にするべく屋敷に飛び込んだ。次の瞬間、サルはハッとした。なんとそこには鬼は
見えず、代わりにサルの大好物のオニギリが所狭しと山積みされているではないか。
サルがびっくり仰天していると、鬼の盗賊団の親分が現れた。親分は「お釈迦様の宝
物を持ってきたら、ここにあるオニギリをすべてやる」とサルをそそのかした。何を
隠そうこのサル、柿の種をオニギリと交換したあの「サルカニ合戦」のサルの子孫で
もあった。これだけたくさんのオニギリを交換条件としてつきつけられたのだからた
まらない。サルは鬼の条件をのんでしまった。
 (4) だがそれに気がつかないお釈迦様ではなかった。手の平を返したように盗
賊団の仲間入りをしたサルを平手打ちした後、お釈迦様は、バチとしてサルを天界か
ら追放し、下界へ落とした。警備員を首になったサルは、生計を立てるため神奈川県
西部で、かごやになった。


子孫のオオカミ
 (1) ヒツジ飼いの少年がヒツジの番をしている牧場に、一匹のオオカミが出現
した。少年は大きな声で、「オオカミだ! オオカミが来たぞ!」と叫んだ。たちま
ち大人たちが銃を持って駆けつけた。だがすでにその時には、オオカミは姿をくらま
していた。勘違いした大人たちは、「嘘をつくな」とヒツジ飼いの少年を叱った。オ
オカミは大人たちがいなくなったのを見はからって、再び姿を現した。ヒツジ飼いは
また、「オオカミだ! オオカミが来たぞ!」と叫んだ。大人たちが駆けつけたがオ
オカミは見当たらず、少年はまた叱られる。そして大人たちがいなくなってまたオオ
カミが…。これが何度も繰り返されていくうちに、ヒツジ飼いの少年は大人たちから
オオカミ少年」とあだ名されるようになり、やがて大人たちは少年の声に耳を貸さ
なくなった。何を隠そうこのオオカミ、「オオカミとヒツジ飼い」で最後に本当に現
れたオオカミの子孫であった。お話では、少年が嘘をついたことになっているが、実
はこの方法で少年を嘘つきにしたてあげ、キツジと少年を食べたのであった。
 (2) オオカミは、祖先同様にキツジと少年を一飲みにしてしまった後、すぐに
大きないびきをかいて眠ってしまった。何を隠そうこのオオカミ、「赤ずきんちゃん
」で、おばあさんと赤ずきんちゃんを一飲みにした後、眠ってしまったオオカミの子
孫でもあった。オオカミには、祖先同様に人間を食べると眠ってしまうという習性が
あった。オオカミはしばらく気持ちよく夢の世界に浸っていたのだが、突然、胸騒ぎ
がして目を覚ました。案の定、手にハサミを持った猟師がオオカミの近くにいた。と
っさに身をかわしたオオカミは、飲み込んだ少年を吐き出し、猟師に投げつけた。猟
師がひるんだすきにオオカミは逃げ出した。猟師は後を追い掛けた。
 (3) しばらく行くと、オオカミの進行方向に藁でできた家が立ちはだかってい
た。オオカミはそれを息で吹き飛ばした。またしばらく行くと今度は木の家が立ちは
だかっていた。オオカミはまた息で吹き飛ばした。何を隠そうこのオオカミ、子豚の
作った藁の家や木の家を吹き飛ばしたあの「3匹のコブタ」に出てきたオオカミの子
孫でもあった。そして、お医者さんの住む、煙突のあるレンガ作りの家を見た時、煙
突から中へ侵入してしまった。オオカミには、祖先同様に煙突を見ると中に入ってし
まうという習性があった。そして案の定、お医者さんが実験の薬品を調合するため熱
していた釜の中に落ちてしまった。
 (4) ところがである。全身に薬品を浴びたオオカミの身体は化学変化をおこし
、全身の毛は抜け落ち、みるみるうちにその体は人間の姿へと変化していった。大き
な音に驚いてお医者さんが駆けつけた時、そこには大火傷をした裸の人間がいた。し
かし、オオカミも完全に人間になったわけではない。満月を見るとまた元の姿になる
のであった。 


子孫のネズミ
 (1) 多くのネズミの命と安全を守るため、ネコの首に鈴をかけることを決意し
た1匹の勇敢なネズミがいた。何を隠そうこのネズミ、「ネズミの相談」で、ネコか
らネズミを守るため、ネコの首に鈴をつけることを提案したネズミの子孫であった。
結局祖先は、自分の提案を実行にうつせずじまいであったが、子孫は今それを実行す
べく、行動を開始したのであった。
 (2) どこからともなく、何とも言えないよい匂いが、ネコの鼻をくすぐる。そ
の匂いに誘われて、ネコはフラフラと匂いのする方向へ歩きだした。フラフラフラフ
ラ歩いているうち、ネコは大好物であるマタタビの入ったおむすびを見つけた。匂い
の元はこれだった。ネコは思わずおむすびに飛びついた。すると途端に地の底が抜け
、ネコはコロリンスッテンテンと穴の中に落ちてしまった。ネコの身体は、首から上
を出したまま地に埋もれてしまった。そこへ、作戦成功とばかりにネズミが現れた。
何を隠そうこのネズミ、「おむすびころりん」で、穴の中に住んでいたネズミの子孫
でもあった。したがって、おむすびをネタに誰かを穴の中に落とすのは得意であった
。ネズミの仕掛けたワナにまんまとはまり地面から頭だけを出したネコの首に、ネズ
ミは楽々と鈴をつけた。そして、勝利の印として、ネコの毛を何本かむしり取った。
 (3) むしり取ったネコの毛を持って、ネズミは大都会にある大金持ちのネズミ
の御殿へ向かった。ネコの毛を見せ、自分がそのお嬢様の結婚相手にふさわしい、勇
敢なネズミであることを示すためであった。何を隠そうこのネズミ、家風が合わない
からと初めは結婚を許されなかった、「ネズミの嫁入り」のネズミの子孫でもあった
。大金持ちのネズミは、娘の結婚相手として勇気のあるネズミをと考えていた。そし
て子孫のネズミは、親を説得させるだけの勇気の印をいま手に入れたのであった。
 (4) だが、ことは思うようには運ばなかった。ネズミは、御殿に入るのに玄関
から入らず、壁を食い破って入ったため、家を壊されたと親は、かんかんになって怒
り、娘からは田舎者と愛想をつかされた。結局、自分には都会の生活は合わない。そ
う悟ったネズミは、田舎に帰った。