如月 文実(きさらぎ ふみじつ)です。四コマ物語人間風刺その1 3作品を投稿いたします。

人間風刺)
如月文実
人間風刺は、四コマ物語の原点をなすところです。全ての四コマ物語のジャンルは
、人間風刺に集約されると言っても過言ではありません。

世代の違い
 (1) 期末試験を1週間後に控えた夜、西川英吉は勉強道具を持って自習室に向
かった。英吉は、今年六十余歳。2年前に緑内障と老人性白内障を併発し、視覚障害
者になってしまった。英吉は、年齢でいえば、世間一般でいう老人にあたる。すでに
息子は自立して、孫までいて、経済的には働かなくても十分暮らしていける。しかし
何もせず、何もできずに、このままボオッとした余生を送ることに空しさを感じたた
め、この春に思い切って視覚障害者の職業訓練施設に入学した。そして、そこに併設
されている寮で生活しながら、按摩の免許を取る勉強をしているのであった。
 (2) 自習室には誰もいないらしく、部屋の電灯はついていない。英吉は電灯を
つけた後、自習室の奥にある対面朗読室へ向かった。視覚障害とは、世間一般で考え
られているように、視力がまったくないことだけをさすのではない。英吉の場合、墨
字(一般に使用されている文字を点字に対してこう呼ぶ)を読むくらいの視力は残っ
ていた。だが、長時間墨字を読み続けることは非常に困難で、そのため学習にはテー
プに録音された教科書を併用していた。しかし自習室でテープを使うと、たとえイヤ
ホーンを使ったとしても、スイッチを入れたり切ったりする時の音や、巻戻しや早送
りする時の音が他人に迷惑をかけるのではないかと気がかりなので、対面朗読室をよ
く利用する。対面朗読室とは、朗読ボランティアに、本を読んでもらうときに使用す
る部屋で、個室になっており防音設備も整っている。またボランティアの来ない時間
帯には自由に使ってよいことになっている。対面朗読室も電灯はついておらず、誰も
いないようだ。英吉はドアを開けようとした。だがなぜかドアは開かない。何度か試
みたが駄目である。「点字の子が使っているのかな」とドアの窓から中をのぞいて見
る。カサコソと、音がするようだが、自分の視力では中のようすは分からない。ノッ
クしてみたが返事はない。どうやら、ドアが壊れて開かなくなっているようだ。英吉
は、一瞬、宿直の先生に来てもらいドアを開いてもらおうかとも思ったが、そこまで
大袈裟にすることでもないし、時間がもったいないと思い直し、朗読室のすぐ近くの
席に座った。幸い、自習室には自分以外には誰もいないので、気を使う必要もない。
とにかく、だれかが来るまで、ここで勉強することにした。
 (3) それから約30分後、突然、対面朗読室のドアの開く音がした。「あれっ
」と英吉は思わず後ろを振り返った。見ると対面朗読室のドアが開いている。そして
、暗闇の中から、なんとブリ男とブリ子がそろって出てきた。ブリ男というのは英吉
のクラスメイトで、二十歳過ぎの男。視覚障害者としてはかなり視力の良いほうで、
ゴキブリのごとくすばしっこく動き、しかも暗い所が好きだということから、ゴキブ
リのブリを取ってこのあだ名がついたそうだ。ブリ子は二十歳前の女の子で、ブリ男
のガールフレンドということで、このあだ名がついたそうだ。その2人が、電灯のつ
いていない、鍵のかけられた個室から出てきたのだ。
二人は英吉とは目を合わさず、黙って自習室を出ていった。英吉は、それからしばら
く学習に集中できなかった。若い男女が、暗い個室で鍵をかけて、30分なにをして
いたのか…。想像できることはただひとつ…。しかし試験1週間前に、しかもこんな
所でそんなことをするとは…。今時の若い奴のすることはわからん。ただブリ男が暗
い所が好きだという意味が初めてわかった。結局この日は集中力を欠き、勉強はでき
ずじまいで終わった。
 (4) それから数か月後、突然ブリ男とブリ子はそろって停学処分を受けた。そ
の理由は知らされなかったが、英吉を始めクラスの者は、その理由をおよそ理解して
いた。本当に、今時の若い奴のすることはわからん。英吉はあらためて世代の違いを
感じた。


結果発表
 (1) 50番目の人が歌い終わり、カラオケ選手権大会に出場したすべての人の歌
が終わった。そして、あと 30分後には、審査結果の発表がある。自己評価ではある
が、今回は、歌詞も間違えず音も外さずうまく歌えたようだ。幸二にしてみれば、ま
ずまずの出来であった。あとは結果がどうかである。このカラオケ選手権大会は、地
域住民を対象としたもので、予選はなく先着順で、地域住民なら誰でも参加できる。
また、5位以内の入賞者には、豪華な賞品が用意され、その他にもハッスル賞、審査
員特別賞、もっとがんばりま賞なども設けられていた。用意されたお茶を一杯飲んだ
後、幸二は自分の成績を自己審査した。出場者の半数は、歌詞を間違えたり、音を外
したり、一本調子で歌っていたりしたので問題はない。しかしあとの半数の中には、
際だってうまいのが7、8人いた。残りの人はそれなりである。自己評価の上では、
幸二はそれなりの部類に入る。したがって、自己審査でも幸二の入賞は不可能ではな
いかという結果が出た。にもかかわらず、幸二の心の奥の片隅には「もしかしたら…
」という気持ちが一かけらほどあった。
 (2) そして、30分が過ぎ、いよいよ審査結果の発表である。最初に発表された
のは、ハッスル賞などの、各部門賞であった。これらの賞は、審査基準があいまいで
審査員の主観に左右されるところが大きい。したがって、歌唱力に自信のない幸二に
も5位以内への入賞よりはまだ可能性はないことはない。そう考えると、心の奥の片
隅にある「もしかしたら…」という気持ちがほんのちょっぴり大きくなった。だが、
選ばれたのは、小学生の男の子と、90歳のおばあちゃん、そして地域の実力者であっ
た。これにより、いままでの不可能ではないかという気持ちは不可能だという確信に
かわり、それが「もしかしたら…」という一かけらを削っていった。
 (3) だがどういうわけか、性懲りもなく、「もしかしたら…」という一かけら
の気持ちは完全には消滅しなかった。まだその半分くらいは残っていた。そうするう
ち、ついに入賞者の発表が始まった。5位、4位、3位、2位と発表が進むにつれ、
不可能だという気持ちはなおいっそう勢力を増し、「もしかしたら……」という一か
けらの気持ちをどんどん削っていった。だが、それでもなおどういうわけか、性懲り
もなく「もしかしたら…」という気持ちのかけらは完全には消滅しなかった。
 (4) 第1位が発表された直後、その気持ちのかけらはやっと完全に消滅した。
だがその代わり、幸二の心の奥の片隅には性懲りもなく「惜しかったなあ」という気
持ちが一かけら生まれていた。


光る石
 (1) 9月初旬、波之介は島根県三隅町に住むいとこの家に遊びに来ていた。い
とこの準二郎とは、昭和三十年の彼の結婚式以来、実に三十五年ぶりの再会であった
。彼とは、子供のころ家が近所だったということもあり、近くの海岸でよく一緒に遊
んだ。しかし、昭和二十五年に波之介が就職で東京に出てからは、互いの生活に追わ
れ、何かのひょうしに、しかも何年かに1回くらい電話で話をする程度であった。だ
が、年をとり、子供も成長し、会社も停年となって、家庭にする責任からも、社会に
対する責任からも解放された今、何の利害関係もなくただ純粋な人と人との触れ合い
のみでつながっていた昔なじみに会いたくなった。そして、
その昔なじみと自分をつなげていた、田の浦の海岸が見たくなった。何の加工もされ
ていない自然の海が見たくなった。準二郎の話だと、ここの海は、あいかわらず波が
荒く、浜にも海の中にも石がゴロゴロ転がっており、しかも海の中を一歩歩けばズド
ンと深くなっている。それで、海水浴場には不適で、開発もされずほとんど昔のまま
だという。三十五年ぶりの再会を祝って飲み明かした朝、波之介は、一人、海岸に足
を運んだ。
 (2) 小学校校舎のわきから、海岸へ続く松林を抜けると、視界が開けた。と同
時に、波之介はギョッとした。三十五年前には松林を抜けるとそこにはすぐに砂浜が
あった。だが今、自分の目の前には、アスファルトでできた道路と、浜と道路を仕切
るコンクリートでできた波返しがそびえ立っていた。城壁のような波返しから海をの
ぞくと、テトラポットが砂浜を人工的に区切っていた。「やはりここも…」、波之介
は落胆した。しかし、幸いにも、海と浜は少しもけがれているようすはなかった。波
之介は、城壁の階段から浜に降り、城壁を背にし、テトラポットが視界に入らないよ
う、まっすぐ海を見た。そこには波荒く澄んだ海と砂と小石とが、仲よくその領土を
分け合い、海に平行に縞模様のじゅうたんを敷いている。そこには人の山もゴミの山
もない。それはまさしく、子供のころの故郷の海の風景そのものであった。なんだか
うれしくなり、波之介はゆっくり砂浜を歩き始めた。
 (3) だが、波之介は、再び落胆に見舞われた。あちらこちら歩くにつれ、遠く
からは見えなかった花火の燃えかす、ビニールの袋、割れたビンのかけらなどの細か
いゴミが目に入った。よく見ると、テトラポットを3つ4つ越えた所には2、3のテ
ントも見える。ゴミは、都会の海水浴場のようにそこらじゅうにあるわけではない。
しかし、浜辺のゴミといえば、海草や木切れであり、人工的なゴミは一つもなかった
昔とは違っていた。たとえわずかなゴミでも、波之介を落胆させるには充分であった
。波之介は、しばらく呆然としていたが、やがて気を取り直すと近くに落ちていたビ
ニール袋をひょいとつかみ、その中に拾った人工ゴミを入れ始めた。ゴミは、2時間
もかければ、このエリア内だけなら片づけられるほどの量しかない。ゴミを片づけれ
ば、またあの日の海が復活する。そういう思いで、波之介は注意深く地面を見つめな
がら再び歩き始めた。そしてそれが、今度は波之介に意外な発見をさせることとなっ
た。
石のじゅうたんにまじったゴミを拾おうとした時、不思議な石が波之介の目に入った
。それは小豆ぐらいの大きさで、平べったく青く透き通り、太陽光線にかざすとキラ
キラ光った。「こんなきれいな石は今まで見たことがない。捜せば他にもあるかもし
れない」。波之介は持っていたビニール袋を地面においた。そして今度は光る石を捜
すため、石のじゅうたんの上を、注意深く歩いた。光る石は大きい物では親指の頭く
らいあり、色は、青の他に、茶
色や透明なものがあった。「子供のころにはこんな石はなかった。この石は何だろう
」。波之介は不思議で仕方なかった。
 (4) だがその疑問も、ある特徴を持った光る石を見つけた時にとけた。その光
る石にはFという文字があった。そしてそのFとは、まぎれもなく「ファンタ」のF
であった。石だと思っていたものの正体は、心ない人によって捨てられ、割れたビン
のかけらであった。だが自然界には存在しない鋭利なガラスの破片を、海は波の作用
によって踏んでも怪我をしない丸みを帯びた物体に変え、しかも浜辺はそれを自然の
一部分として新たにそしてさりげなく受け入れているのである。波之介は振り返って
海を見た。海は子供のころと同じ姿
で波をうねらせていた。波之介はポツンとつぶやいた、「人間ってなんて愚かなんだ
ろう」。


ーーー 四コマ物語 説明

四コマ物語とは
 (1) 四コマ物語とは、私、如月文実(きさらぎ ふみじつ)が新たに開発した
文学形態(?)です。
 (2) 四コマ物語は、起承転落の4小節からなる小説です。
 (3) 題材は、日常生活のできごと・道端で転がっているような話・スポ−ツ・
社会風刺・おとぎ話・パロディ−などさまざまです。
 (4) みなさんも挑戦してみませんか。そして、001、002と、ネットの中に四コ
マ物語ワールドを作ってみませんか。

 特徴、可能性
 (1) 文が短く、読みやすい・読むのにつらくない。
 (2) その中にもジャンルがいろいろある。
(3) ジャンルの中でもバカバカしいのからシビヤーなものまで、バライティー
にとむ。
 (4) ジャンルがいろいろあり、この先好きなものだけ拾い読みできる。
 (5) ジャンルがいろいろあり、老若男女はばひろく楽しめる。
 (6) 読者自信が自由に新たな四コマ物語のサイトを作ることも可能。
 (7) この形式に当てはめればだれでも簡単に小節が書ける。
 (8) この形式に当てはめて、既存の小説を四コマ物語にすることができる(要
約四コマ)。
 (9) これを元に短編、長編小説を書くことも可能。 
 (10) (4)[落]を組替えることにより小説を改造できる(陰、陽)。
 (11) 将来、俳句、和歌のように、「四コマ物語集」ができるかも?
 (12) 将来、四コマ物語の大きなネットができるかも?